ブダペスト世界陸上男子砲丸投げ銀メダリスト、レオナルド・ファブリ(イタリア,27歳)の躍進が止まらない。
今季は室内も含め既に9試合に出場しているファブリだが、2月のWAツアー室内で22m37の自己新をマークすると、5月1日には屋外で世界歴代7位となる22m88の大投擲を放った。
そこからわずか二週間後のSavona国際では22m95まで自己記録を伸ばし、アレッサンドロ・アンドレイの持つイタリア記録22m91を36年ぶりに更新した。
また、世界歴代順位も5位まで上昇した。
臥薪嘗胆の末に急成長
同国イタリアにはゼイン・バイアーやニック・ポンツィオなど国籍変更後に台頭してきたライバルがいる。
昨年ブダペストで銀メダルに輝くまで二人の陰に隠れがちだったファブリだが、昨年から好調を維持しており完全に殻を破ったと見ていいだろう。
ブダペストで放った幻の大投擲がフロックでなかったことはとうに証明されたが、これほどまでに記録を伸ばしたとなると遅咲きの彼にも新たな野望が頭をもたげつつあるかもしれない。
パリ五輪の金メダルである。
世界記録保持者ライアン・クルーザーの台頭以降、男子砲丸投げを取り巻く環境は目まぐるしく変化してきた。
記録面は特に顕著であり、2024年現在世界歴代1位,2位,5位,7位,12位,13位1ペイトン・オッターダールの22m59は非公認となっており、公認記録22m41では19位,16位(二名),20位…等々が現役選手であり、歴史上最も記録水準の高い時代であることは疑いようがない。
砲丸投げの歴史に残る大接戦が展開された2019年ドーハ世界陸上以降、世界大会の優勝記録は22m後半~23m台で推移している。
2019年~2023年の四年間には五輪・世界陸上合わせて四大会が開催されたが、ファブリの22m95はそのうち二試合の優勝記録(’19ドーハ・’22オレゴン)を上回っており、既に金メダルクラスの格を備えつつあると言える。
残りの二試合はいずれもクルーザーの23m超であり、ファブリが頂点に立てるかは彼の調子に依るところが大きいだろう。
動向不明の絶対王者
当のクルーザーはというと2月に室内セカンドベストとなる22m80を投げ、3月には悲願の世界室内初優勝を果たし唯一手にしていなかったビッグタイトルを獲得。
順調な滑り出しかと思われたが、それ以降は一試合も出場していない。
彼のYoutubeチャンネルに投稿された動画によると胸や肩に張りを訴えており万全の調子ではないことがうかがえる。
言うまでもなく、今季の最大目標は五輪三連覇だ。連覇を確実視されていたクルーザーだが、ここにきてファブリの躍進が大きな障害となりつつある。長年に渡り世界の砲丸投げシーンを彩ってきた王者の心中はいかばかりか。
しかしそこは歴戦のクルーザー。陸上界屈指のストイック精神と常に高い意識・目標を持ち続けている彼にとっては多少の怪我やライバルの飛躍など想定の範囲内だろう。例年より屋外のシーズンイン(4月下旬~5月上旬)が遅れていることは確かだが、五輪連覇を確実なものとするために必ずや入念に計画を立てているはずだ。
再び23m台を投げられるコンディションにさえ戻れば、いかに伸び盛りのファブリといえどそう簡単に彼の首は取れない。
クルーザーはリオ五輪の年・2016年に大ブレイクを果たし、東京五輪でも23m30の五輪新をマーク。五輪の年にめっぽう強い“五輪男”と言ってもいい。
奇しくも五輪男と呼ばれていたトマシュ・マイェフスキ(ポーランド)が引退した2016年、彼の跡を継いで五輪王者となったのがクルーザー。母国アメリカで開催される2028年ロス五輪まで現役続行の意志を示しており、地元で有終の美を飾るためにもここで連覇を途絶えさせる気は毛頭ないだろう。
ファブリ以外にも同じアメリカのライバル、ペイトン・オッターダールが絶好調。クルーザーと言えども22mを下回るパフォーマンスが続くと熾烈な全米選考会の代表三枠に入ることも危うくなってくる。
初戦をどの程度の記録で迎えるか。今季世界最高をマークしライバルにプレッシャーをかけるか。
「このオレがいる限り、王座は渡さない」というような存在感をそろそろアピールしたいところだ。とにもかくにも、今後は王者の動向から目が離せない。