欧州投擲杯Throw Back 砲丸投・円盤投─痛感した選手層の差

 アジア勢≒欧州U23

アジア投擲杯では、Muhammad Irfan Bin Shamshuddin(マレーシア)が60m60で圧勝し、8位は52m21という記録だった。出場選手の名前をそのまま日本人に入れ替えても日本選手権の結果として違和感がないことから、50m以上の層が厚いことは日本勢の明確な長所であると言える。

以前の記事で日本のトップ勢≒U20世界トップであると解説したが、現在のアジア全体の層としてはアジアシニア≒欧州U23と見て間違いないだろう。既に引退したイサン・ハダディ(イラン)やヴィカシュ・ゴウダ(インド)、前アジア記録保持者の李少傑(中国)など、過去にはアジアでも突出した実力を持つ選手もいたが、現在では60m台前半の選手がエリアリーディング(AL)、即ちシーズントップ記録を争っている。

アジア勢としては、欧州U23の選手に完勝できるくらいまで全体水準が上がれば世界への門戸もより開けたものになるだろう。

比例しない技術

投擲経験者なら、濡れたサークルはできればご遠慮願いたいものだ。しかし一流であれば、A組のフィアフィリカのようにどんな状況でも好記録を投げることができる。経験・筋力・技術など複合的要素が重なって初めて対処できるものであるが、その点U23は対応力の低さが露呈したようにも思う。

また、技術的に見ても転倒を怖がってか体格の割に動きの小さい選手が多く、ターンの完成度も一部を除き荒削りというしかないほどである。

やはりリヒターやブルーディンの技術が頭一つ抜けているという印象だ。ターンが飛んだり、無駄な動きをせず安定した記録を残せるという時点で他の選手とは格が違うように思う。

実際、リヒターは61mの他にも60m台を複数回投げており、実力的には一般シニアグループに出場してもいいくらいである。投擲方向も中央寄りだった。
ブルーディンもさすがU20世界王者といったところ。50m後半を連発できる地力の高さを感じた。

しかし他の選手はというと、どうしてこの投げで50mを超えるのかというようなフォームも散見した。

さらにベスト記録を見てみると、多くの選手が55m以上投げていることがわかる。端的に言えば、記録と技術がまるで見合っていない。

同じ実力帯であれば日本選手のほうが技術力があり、日本選手よりも高等の技術を持つ選手は得てしてかなり高い実力を持っているというケースが多いのではないだろうか。

試合中継を見ていて、首をかしげたくなるターンはたくさんあったが、中でも気になったのがS. MARMONTI(イタリア)とA.SUMA(コソボ)だ。

こんな極東のウェブサイトで技術を酷評するのは忍びないが、お世辞にも上手いとは言えない投げで私の興味を引いた。

MARMONTIのベストを確認してみると、49m78(2㎏)とある。U20規格(1.75㎏)では55m54という高校日本歴代上位クラスの記録を持っているが、日本の高校生の方がよほど良い投げをするから驚くばかり。

まだ19歳と若く、身長が高いせいもあるだろうが(2メートル前後?)、一目見て円盤投選手と分かる人はどれだけいるだろうか。

手足の細さを見ても、走高跳の選手にしか見えない。この技術と体つきで50m弱投げられる選手は、日本歴代でも恐らくいないのではないだろうか。全ての日本人50mスロワーを知っているわけではないが、少なくとも日本においてはフィジカルと技術がある程度高水準にある選手にしか到達できないような領域であるように思う。

21歳のSUMAはMARMONTIよりも体つきはある程度ガッシリしているが、見たところ背はあまり高くなく、技術的にも劣るように思われる。しかし50m33のベストを持っており、仮に2023年の全日本インカレであれば7位相当の記録だが、日本の大学生のほうが余程上手ではないだろうか。

これはU23砲丸投でも同じ。18m~19mのベストを持つ選手の投げを見ても、明確に日本選手より上手いと言える人はほとんどいないのである。

かねてより投人チャンネルに上げた技術解説の動画などで日本選手と世界トップ選手を比較することが多かったので、「投人は日本アンチなのではないか」と思われる方もいるかもしれないが、こうなると実際は比較対象が悪すぎるだけだったと言えるかもしれない。

砲丸投も円盤投も、同じくらいのベストであれば日本選手のほうが上手な傾向にあることは確かだと思う。逆を言えば、あれだけフィジカル依存の投げをしていて日本トップ層と同等なら、技術が追いついてくる20代中盤には大差をつけられてしまうのも不思議ではない。

たとえ技術が未熟でも、生来のパワーやリーチで50mや18mくらいなら何とかなってしまうというのは恐ろしくもあり、羨ましくもある。

ただし体格でアジア人を圧倒する海外選手の中にも、この身長と技術でなぜ飛ばないのかという選手もたまにいる。2メートル130㎏は優にあるかという体格でも、砲丸のベストが18m台~19m台の前半だったり、205㎝以上あるような円盤投選手でもベストは65m程度だったりといった具合にだ。

逆に日本人と変わらない身長でも世界トップクラスの距離を叩きだす選手がいたり、一口に海外といっても様々な能力の選手がいることもまた確かである。

日本選手がサークル種目で世界と戦うために必要なものは何か。海外勢はフィジカルで上積みできる距離が大きいだけに、日本勢はたとえ敵わなくとも少しでも近い水準を達成する不断の努力と、トップ選手にも負けない技術力なしに世界の舞台は見えてこないと、改めて痛感させられる試合だった。

【関連リンク】欧州投擲杯リザルト

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