円盤投げ年代別カテゴリーから見る日本と海外の記録差

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U20(高校規格1.75㎏)

次に現在日本の高校規格でもあるU20規格(1.75㎏)について比較してみる。2023年のリストトップは66m58を投げたミハイロ・ブルーディン(ウクライナ,18歳)。10位がコービー・ローレンス(ジャマイカ、19歳)の60m41。先述のU18同様、アンダーカテゴリーでは60mを超えるか否かがトップクラスのボーダーラインのようだ。なお、ブルーディンは2024年までU20資格者として競技できる。

引用:https://www.hna.de/wlz/lokalsport/marius-karges-ueber-gold-in-cali-viel-essen-und-den-zwei-kilo-diskus-91715962.html

日本勢トップは51m07の武井夢叶(京都産業大)で、全体129位。2004年生まれでは67位。2004年生まれトップは Danie STROOH(南アフリカ)の62m94で、全体でも2位の記録である。

U20規格も高校卒業後は投げる機会が激減するため、日本勢はやや不利ではあるかもしれないが、それでも世界の壁は高い。

高校記録は山下航正(市岐商高3,現九共大院)の58m38だが、これは非常にハイレベルな記録である。記録樹立した2018年のリストでは全体26位にランクされ、U20世界選手権にも出場を果たした。この種目での世界大会出場自体非常に稀であることから、いかに山下が傑出した存在だったかを裏付ける形となった。

また、U20日本記録(58m80)を持つ安藤夢も樹立年に世界リスト18位,U20世界選手権出場を果たしており、60mに近い記録であれば世界への扉を開ける位置にはいる、ということなのかもしれない。

ただ日本の部活動形態による恩恵か、それとも弊害かは意見の別れるところだが、日本の陸上選手は総じて早熟傾向にある。投擲以外の種目、例えば短距離でも世代トップの選手は世界選手権でも記録上位だったり、メダルを獲る選手もいる。

ではシニアでそのまま通用するかと言えば、非常に厳しい状況である。日本では高校に入学すると、中学で好成績を収めたエリート選手は強豪校へ進学し、インターハイを目標に練習に励む。インターハイ出場なり入賞なりを果たせば、大学推薦や就職の道も開けるとあって厳しいトレーニングを行っている選手も多いだろう。

ところが海外の選手、特にアメリカが顕著だが、必ずしも真剣に競技している選手ばかりではない。

U18の項目で挙げたジャクソン・キャントウェルはアメフトと陸上を掛け持ちしているため、練習の全てを投擲に費やしているわけではないが、それでもあれだけ高水準の記録を出している。

アメフトのトレーニングが投擲に寄与している(あるいは将来的に)部分もあるにはあるだろうが、ただ現時点で記録を伸ばすだけなら陸上に専念したほうが良いのは確かである。

また、世界リストを見てみると、日本の上位が円盤投げを専門とする選手ばかりなのに対し、海外勢は他種目(砲丸投やハンマー投)の片手間─すなわちサブ種目として取り組んでいるのにも関わらず日本勢よりも良い記録を出す怪物が少なくない。サブと言っても多少の時間は割いているのかもしれないが、複数種目で高水準の記録をマークしていることが珍しくないのである。

例えば安藤夢がU20記録を樹立した2016年のリスト14位には、ベンツェ・ハラス(ハンガリー)がいる。ご存じハンマー投げのメダリストだが、当時はハンマーをメインに砲丸投げ・円盤投げにも出場していた。円盤投げで59m35、砲丸投げでは17m83,ハンマー投げに至っては82m64を投げており(いずれもU20規格)、砲丸投げは日本(高校)歴代トップクラス、他は同年代の日本選手では太刀打ちできない水準の記録である。

ハラスの円盤投げ

他にも砲丸投げでU20世界新を出した(※後に抹消)コンラド・ブコビエスキが62m20,昨年国内選手権でエイビン・ヘンリクセンを破ったハンマー投げのトーマス・マーダル(ノルウェー)が58m68(砲丸投18m37,ハンマー投70m83)など、一つの種目に専念せずとも高水準の記録を揃えられるポテンシャルは、シニアに上がる前から日本勢との大きな差であると言える。

つまり彼らは、アンダーカテゴリーの時点で日本勢より記録を出している上に、残している伸びしろも日本勢以上なのである。だからこそ、日本人がアンダーカテゴリーで比較的上位につけていて、かつシニアで順調に記録を伸ばしたとしても、5年・10年とキャリアを積んだころには覆しようのない差が生まれてしまうと考えられる。海外勢にとっては、専門種目を一つに絞るシニアからが本番と言っても差し支えない。

これは他種目にも当てはまる傾向だが、投擲の場合はシニア前から記録的大差をつけられていることがほとんどで、その差が全く埋まらないどころか差を広げられてキャリアを終えていく…というのが現状である。海外選手の場合、特にメダリストクラスはシニアに上がっても記録向上がすぐ頭打ちにならず、毎年数メートル伸びるといったケースも珍しくない。その最たる例がマイコラス・アレクナだろう。

100mで言えば既に相手が10m先にいる状態でスタートする、と考えれば逆転の難しさがわかるだろうか。

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