スタール,チェー,マイコラスの三強強し
自己ベスト・実績からするとBIG3の力が抜けている。クリスチャン・チェー(スロベニア),マイコラス・アレクナ(リトアニア)の急成長ぶりにやや後れを取っていたダニエル・スタール(スウェーデン)は昨年ブダペストで劇的な逆転を披露し再び存在感をアピールした。だが、自己ベストは2019年71m86のままであり、まだ若いチェーが既に同記録で並んでいる。5年連続70m超をマークしてきたことは特筆に値するが、スタールも今年で33歳。今年、来年あたりまでが記録を狙えるラストシーズンとなるかもしれない。
一方、今年25歳となるチェーの勢いは未だ衰えていない。昨年は王座奪還されたものの、自己記録を世界歴代4位まで押し上げた。4年前彗星の如く現れた206㎝の大器は、メダルを期待された東京五輪では66m37で5位に終わる苦渋をなめた。当時、コーチとの喧嘩別れもあり五輪本番に向けた準備に集中できなかったことも結果に影響したと思われる。
しかし、以後は世界陸上オレゴン,ブダペストと二大会連続で表彰台に上り実績と自信を深めてきた。五輪の借りは五輪でしか返せない。スタールを王座から引きずり下ろすべく、五輪王者ゲルド・カンテル氏のもと着々と準備を進めていることだろう。
二年前のオレゴンで鮮烈な世界デビューを果たしたマイコラス・アレクナはどこまで記録を伸ばしてくるか。昨年は史上最年少70mスローとなる71m00を記録し、ブダペストでも銅メダルを獲得。20歳にして三強と呼ぶにふさわしい明確な存在感を示した。
しかし飄々とした態度とは裏腹に、試合には勝ちたいという欲はしっかり持っているのが彼の凄いところ。表には出さないが、そろそろスタールとチェーを倒し覇を唱えんと、頂点を虎視眈々と狙っていることだろう。
マイコラスには兄・マルティナスとロンドン世界陸上金のアンドリウス・グドジウスという心強い味方もいる。昨年マルティナスは自己ベストを67m台まで伸ばし、同世代のトップに躍り出た。弟の陰に隠れがちだが、彼もあのウィルギリウス・アレクナの息子。円盤投選手としてもまだ若く、ポテンシャルは未知数だ。チーム・リトアニアで世界の頂点を目指したい。
その他にもシモン・ペッテション(スウェーデン)やルーカス・ワイスハイデンガーなど虎視眈々と王座を狙っている70mスロワーも覚えておこう。
円盤投げにも若い世代に楽しみな選手が多くいる。今年躍進を期待したいのはコナー・ベル(ニュージーランド)だ。昨年は二月に66m23の国内新をマークし、ブダペストでも決勝に進出。63m23で10位に終わり惜しくも入賞とはならなかったが、世界大会デビューとしてはむしろ上々の結果と言えよう。
2024年は新年早々試合に出場し65m39という好記録をマークしている。昨年はシーズン前半にピークが来てしまった印象があるが、今年は五輪本番まで手の内は隠しておいてもらいたいと思う。技術的にも良いものを持っているので日本選手にも参考にしてもらいたい。
チェーと同じ1999年生まれのターナー・ワシントン(アメリカ)にも注目だ。一時は第一線を退いたワシントンだが、陸上への想いを捨てきれず競技復帰。ブダペストでは予選12位のベルに次ぐ13位に終わり決勝進出こそ逃したが、彼もまた金メダリストの息子。砲丸投げもこなすマルチな才能はまだ完全に開花していない。現在は砲丸投げメダリストのライアン・ワイティングのもとで理想の投げを追究している。ワシントンVSアレクナ兄弟の対決はぜひ見てみたいものだ。
円盤投げと言えば、ドイツ勢の存在も気にかかる。U20世界記録保持者のミカ・ソスナやMarius KARGES,スティーブン・リヒターら2003年生まれの若い世代が活況だ。ソスナやKargesは20歳であることを考えると健闘しているが、U20時の記録からすると少し物足りない感じがしてしまう。特にソスナは少し力推しの印象を受けるフォームである。
逆にリヒターは技術的に見ても年齢の割にはまとまった投げができているように思う。U20時代は三番手だったリヒターが、シニアの成績では二人に先んじたのだからやはりシニア規格におけるパフォーマンスとは難しいものだと感じさせられる。
将来のドイツを背負う円盤投げ三銃士。古豪ドイツ復活に向けて存在感をアピールしたいところだ。
五輪女王VSサプライズスロワー
昨年のブダペストは誰もが予想しなかった幕切れだった。四投目終了時点でヴァラリー・オールマン(アメリカ)の優勝はほぼ間違いないと思われたが、五投目にラウラウガ・タウサガ(アメリカ)が自己記録を4メートル更新する69m49を投げて大逆転。調子を崩されたオールマンの再逆転はならず、またしても世界陸上の栄冠を逃した。
安定感・実力の上では間違いなく現役No.1のオールマンだが、追う展開はやや苦手な印象を受ける。オレゴンの時も力んだ投擲が多く、一投目に大投擲を見せたフウ・ヒン(中国)に追いつくことはできなかった。東京の金は雨で競技が中断される前、前半の試技で首位に立てたことが大きかった。安全圏に逃げ切るためには、やはり70mは超えておくことがポイントとなってくる。
今年結婚式を挙げたサンドラ・ペルコビッチ(クロアチア)も未だ健在。充実した私生活に、円盤選手としての活躍も添えたい。
フウ・ヒン,タウサガも含め、金メダル争いはまず間違いなくこの四人で展開されるだろう。
2019年ドーハのチャンピオン,ヤイメ・ペレス(キューバ)は出場できるのか、アメリカの市民権を得られるのかも気になるところではある。
70mスロワーの一人、ジョリンデ・ファン・クリンケン(オランダ)は着々と実力をつけているものの、やはり自己ベストの更新がネックとなっている感はある。まずは68-69mを投げることを目標に頑張ってもらいたい。
日本勢は代表を一人でも多く送り込んで来年の東京世界陸上へ弾みをつけていきたい。