毎年兵庫で開催されている日本グランプリシリーズの一つ、兵庫リレーカーニバル。地元での大会かつ投擲の面子が日本選手権クラスということもあり、今回十数年ぶりに観戦しにユニバー記念競技場まで足を運んだ。
前回は確か2008年だったか、畑山茂雄さんが円盤投の第一人者として活躍されている頃で、優勝記録は55、6mだったと記憶している。
初めて見る日本トップクラスの投げに当時驚いたものだ。第三コーナー付近で観戦していたが、トップ選手の体躯にも目をむいたのも良い思い出である。
あいにくの雨
さて今回は選手の応援ではなく、チケットを購入して観客の一人として参加することになった。意外にも自身初の経験である。
当日の予報は雨。選手のためにも快適な観戦のためにも危惧していたが、やはり降ってしまった。
会場に着いたのは12時を少し過ぎた頃で、既に男子砲丸投の一投目が始まっていた。雨は少し弱まっていたが、各選手冴えない表情の試技が続いていた。
グライド強し
自己ベストは17mを超えている選手ばかりだが、皆15m~16mの間で伸び悩み雨で濡れたサークルの影響がこちらにも感じ取れた。
そんな中、村上輝選手と佐藤征平選手は終始安定したパフォーマンスを見せた。二人ともグライドの選手である。
日本選手にも回転投法が広まる中で、今回はグライドの強みが活きた大会であったように思う。
日本記録保持者の中村太地選手、日本選手権優勝経験のある幸長慎一選手は中々“一発”が出せないもどかしさがあったことだろう。
村上選手が一回目で17m64を投げてトップに立つと、佐藤選手が二回目に17m00で2位につけるとそこからは二人の勝負だった。
四回目に佐藤選手が17m67で逆転したかと思いきや、直後に村上選手が17m90を放ち再逆転。結局この記録が優勝記録となったが、本当に勝負強い選手だ。
グライダーがワン・ツーを占め、17m越えをそれぞれ6本・5本と揃えてきた。
3位に入ったのは中村選手で、17m台は2本。回転投法の選手はサークルに足を取られてしまったか、思い切った投げが出ていないように見えた。
昨今、世界を席巻する回転投法だがこういう場面で脆さが出てしまうのかと勉強になる試合だった。しかし、世界記録保持者のライアン・クルーザーは雨の試合でも22m69を投げていることから、日本選手も技術が洗練されていけばもう少し適応できるのかもしれない。
エントリーリストにはアツオビン・ジェイソン選手や武田歴次選手の名前があったので今回不参加だったのが心残りだ。
絶対王者の貫禄
私が最も心待ちにしていたのが男子円盤投。堤雄司選手、湯上剛輝選手のツートップに今春から東海大院で現役続行した飛川龍雅選手、地元兵庫出身で今季から地元回帰した蓬田和正選手など日本選手権さながらのメンバーが揃っていたからだ。
砲丸投の競技中には断続的に降り続けた雨もやみ、100mスタート地点辺りからやや肌寒い風が吹きつける中円盤投の決勝がスタートした。
試技順一番の山下航生選手(九州共立大)が44m97と低調な滑り出し。気温がかなり下がっていて追い風も吹いていた(吹き流しを見る限りでは横風)ため動きが硬かったのだろうか。
うっかり半袖で会場に来た私がブルブル震える程度に寒かったことは事実である。上着くらい持ってこいマヌケ
続いてサークルに入った日本記録保持者、堤選手。さすがは第一人者といったところか、この状況下でも一投目から56m05と中々の記録を出してきた。湯上選手、幸長選手ら実力者は50m前半に留まったが、最終投擲者飛川選手が52m89を投げ堤選手に次ぐ2位につけ上々な滑り出しを見せた。
しかし二投目に前日本記録保持者である湯上選手が54m24まで伸ばし飛川選手を抜き2位に浮上。表情はまだ冴えない。
三投目、飛川選手が自己ベストに迫る54m00のビッグスローを放つも3位は変わらず。堤、湯上両選手も記録を伸ばせず。
勝負が動いたのは四投目、湯上選手が56m67をマークし堤選手を逆転、一躍首位に躍り出た。直後に試技を行った堤選手は53m43と伸びず。上位二人に対抗しうるのは幸長選手だが、砲丸投にも出場した疲れか50mを超えるのがやっとであまり元気がない様子だった。
幸長選手も53m75を投げて飛川選手に迫る。
五投目、湯上選手の放った円盤は中々落ちず、滑らかなラインを描いて大会記録ライン上に落下。58m43まで記録を伸ばし、自身が保持する大会記録58m66にあと23㎝まで迫った。堤選手は五投目ファウル。
しかし最後の最後まで油断できないのが投擲競技だ。4位につけていた幸長選手が52m54に終わると、飛川選手は何度も跳ね返されてきた学生王者に初勝利を収めた。飛川選手の六投目はファウルに終わったが、日本トップクラスの選手たちを相手に見事表彰台入りを果たした。
そして最後はやはりこの二人の一騎討ち。湯上選手は六投目56m61で記録伸ばせず。堤選手逆転のチャンスが巡ってきた。
雄叫びとともに放たれた円盤は大きな弧を描き大会記録ラインに落下。
─58m64。見事湯上選手を逆転し優勝を手中に収めた。さすがは王者、というべき勝負強さであった。
日本選手権にも期待
悪天候もあり60mスローは見られなかったものの、十数年ぶりに日本トップクラスの投げを見ることができて楽しい試合であった。飛川選手は自己ベスト更新の可能性が高まってきたし、堤、湯上両選手は良きライバルとして互いを高め合っている。
幸長選手にとっては課題の残る大会であっただろうが、彼にもまだまだ伸びしろがある。蓬田選手には国士舘時代に出した兵庫記録更新を目標に頑張ってもらいたいところだ。
世界との差はまだ大きく、日本選手にも課題は多々あるが切磋琢磨して世界の大舞台で活躍する日が待ち遠しいと改めて感じさせる試合であった。日本選手権ではどのような記録・勝負が生まれるのか楽しみになってきた。