五輪女王オールマンが 今世紀最高の投擲を見せた。地元アメリカでの世界陸上初制覇に向け好発進だ。
1992年以来最高記録
4月8日、アメリカサンディエゴにて東京五輪の円盤女王ヴァラリー・オールマン(アメリカ,27歳)が今季二戦目で大記録を打ち立てた。
昨年71m16のアメリカ新をマークしたオールマンは3月19日に68m13を投げてシーズンインしたばかり。
好調な滑り出しに今季も記録が期待されていたが、早くも歴史的な一投が飛び出した。
一投目65m、二投目しなやかで鞭のようなターンから放たれた円盤はグングン伸びた。
勢いのあまりリリース直後に少し前のめりになったがなんとか堪えた。
記録は71m46─サンドラ・ペルコビッチ(クロアチア)が持つ71m41の現役最高を上回るとともに、1992年3月以来過去30年での最高記録11992年3月14日に蕭艶玲(中国)がマークしたアジア記録71m68に次ぐものである。なお、蕭艶玲(シャオ・ヤンリン)は同年禁止薬物に陽性反応を示している。でもあった。
世界歴代ではペルコビッチを抜き15位に上昇。
アメリカの歴代パフォーマンス11傑のうち10傑がオールマンの記録であり、同国史上最高の女子円盤投選手の座を不動のものとしたオールマン。
この試合が行われたTriton Track & Field Stadiumは大学併設スタジアムのため遮蔽物の少ない構造ではあるが、強い向かい風が吹いていたわけでもなく絶好のコンディションというほどではなかったようだ。
2位に入ったレイチェル・ディンコフが61m27に留まったことからもオールマンただ一人が異次元のパフォーマンスを見せたということだろう。
ディンコフは64m41のベストを持ち、昨年東京五輪にも出場した実力者であるが今回オールマンは10mもの大差をつけた。
また、奇しくも同じアシックススポンサードの選手であるSuzy Powellが2002年にマークした69m44のスタジアムレコードも大きく更新した。
新時代の幕開け
規格変更が行われていない女子砲丸投・円盤投は長らく記録的停滞の時代を経過してきた。
女子円盤投の72m台は1989年9月5日にイルケ・ヴィルッダがマークした72m18以来一度も記録されていない。
長年女子円盤投を牽引してきたペルコビッチは今年で32歳を迎えるが、70mスローは2018年以来途絶えてしまっている。
オールマンの71m46は実質的な世界記録と見ても問題はないだろう。
旧女王に代わりオールマン時代を築けるか。
世界陸上ユージーンの舞台はヘイウォードフィールド─昨年全米選考会予選で70m01をマークしたスタジアムだ。
地元の大舞台で70mスロー、さらには72mを超えて観衆を沸かせることができるか。
元ダンサーの華麗なる転身は新たな章に突入した──。
【リザルトリンク】
アンダーセンが今季初戦77m26
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東京五輪女子ハンマー投アメリカ代表のブルック・アンダーセンは自己記録78m18に迫る77m26を放ちシーズンインから好調な出だしを見せた。
わずかなファウルながら80mを超える投擲があったとの情報もあり、前回世陸女王ディアナ・プライス(アメリカ)や五輪三連覇を達成した種目のアイコン、アニタ・ヴォダルチク(ポーランド)を脅かす存在になりつつある。
州立大コンビがシーズンイン
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アリゾナ州立大のターナー・ワシントン、ジョリンデ・ヴァン・クリンケンも今季初戦。
両者とも室内で砲丸投げには出場しているため、円盤投げ、そして屋外の初戦となった。
ワシントンは62m12でまずまずの調子であるが、マイコラス・アレクナ(リトアニア)が66m70を既に投げていることを考えるとやや物足りない印象がある。
前年NCAA砲丸投げ・円盤投げ二冠を果たした王者の巻き返しに注目しよう。
一方クリンケンは62m38の今季NCAA最高をマーク。
昨年21歳にして70m22を記録したオランダの新鋭は、3月に砲丸投げで19m08の自己新をマークして上り調子だ。
円盤投げでの自己記録更新には数年かかるかもしれないが、同じアメリカの地で世界をリードするオールマンに刺激を受け次世代の女子円盤を牽引する存在になることを期待したい。