その1では立ち幅跳びで陸上最高記録を持つArne Tvervaag氏について触れた。今回は投擲選手の記録を調査していくことにする。
以前YouTubeのほうに立ち幅跳び集を投稿したが、この記事ではさらに情報を補足していこうと思う。 [sitecard subtitle=関連記事 url=https://www.throw-fanatic.com/2022/[…]
歴代記録一覧(投人調べ)
- 立ち幅跳び歴代記録(投擲選手)
- 1— 3.71m – Arne Tvervaag1ノルウェーの砲丸投げ選手。立ち幅跳びを専門的に行っていた (NOR)
2— 3.68m – Brian Oldfield 2砲丸投げ世界歴代7位(22m86)を持ち、高い身体能力を活かしストロングマンコンテストにも出場した(USA) @ 127kg
3— 3.60m – Werner Günthör3世界陸上砲丸投げ三連覇(’83・’87・’91)の実績を持つスイス史上最高の陸上選手。極めて高い身体能力でも知られている (SUI) @ 130kg
3— 3.60m – Koji Murofushi4アテネ五輪・テグ世界陸上金メダリスト。’03年にマークした84m86のアジア記録を保持している (JPN) @ 98kg
5— 3.50m – Yuriy Sedykh5ハンマー投げ世界記録保持者(86m74)。 (USR) @112kg
5— 3.48m – Chukwuebuka Enekwechi6ドーハ世界陸上・東京五輪砲丸投げファイナリスト (NGR) @ 126kg
6— 3.44m – Ola Isene (NOR)7ドーハ世界陸上・東京五輪円盤投げファイナリスト @ 107kg
7— 3.43m – Jason Young (USA)8アメリカの円盤投げ選手。片手スナッチで90㎏以上を持ち上げる @ 118kg
8— 3.42m – Casper Hattink9オランダの円盤投げ選手。国際大会での実績はない
9— 3.40m – Simon Petterson (SWE)10東京五輪円盤投げ銀メダリスト @ 105kg
10— 3.37m – Kim Amb11スウェーデンのやり投げ選手。東京五輪ファイナリスト (SWE) @ 86kg
11— 3.35m – Adam Nelson12アテネ五輪・ヘルシンキ世界陸上砲丸投げ金メダリスト (USA) @ 115kg
12— 3.32m – Aleksander Tammert 13アテネ五輪円盤投げ銅メダリスト(EST) @ 116kg
13— 3.30m – Jacko Gill (NZL) 14砲丸投げU20世界記録保持者@ 118kg
13— 3.30m – Martynas Alekna (LTU)15円盤投げU20世界歴代2位。金メダリストV.アレクナの次男 @98kg
14— 3.29m – Frank Casanas (ESP)16北京五輪円盤投げファイナリスト @ 117kg
15— 3.25m – Stipe Zunic (CRO)17ロンドン世界陸上砲丸投げ銅メダリスト @ 133kg
16— 3.23m – Ryan Crouser (USA) 18砲丸投げ世界記録保持者(23m37)@ 145kg
17— 3.00m – Ryan Whiting (USA) 19モスクワ世界陸上砲丸投げ銀メダリスト@ 136kg
17— 3.00m – David Storl (GER) 20砲丸投げ世界陸上二連覇(’11・’13)@ 122kg
※正確な記録ではないため参考扱いになるがハンマー投げ日本歴代2位の室伏重信(181cm, 90kg)は3m50近くがベスト21http://shigenobu-murofushi.blog.jp/?p=4だという。また、信憑性に欠けるが円盤投げのウィルギリウス・アレクナは3m60を跳んだとの情報も確認された。
立ち幅跳びはほぼすべての投擲選手が取り入れていると考えられるが、動画や記録を公開していない選手も非常に多いためこの表はあくまで参考程度に留めてほしい。
3m60の功罪
さて、室伏最強説を唱える方が増えてきた昨今だが、改めて上記の表をよく見てほしい。跳躍種目では体重が重い選手の方が不利になる傾向があり、実際に上位には100㎏前後の軽量選手が多く見られる。
無論室伏の3m60という記録は驚異的ではあるのだが、一方で彼が100㎏にも満たない軽量選手であるということには留意すべきだ。体重1kg毎における立ち幅跳びとの相関性は確固たるデータがなく一概には言えないが、重い物体を動かすにはそれに比例したエネルギー量が必要であり、そうでなければ跳躍選手は投擲選手に近い筋肉量が適正だということになってしまう。
体重が100㎏弱で、かつ幼少期から並外れた瞬発力及び身体コントロールを可能にしてきた室伏にとっては上位にいてある種当然である。
しかも何故か軽視されているが室伏はハンマー投げで84m86という世界歴代4位の記録を持っており、1~3位の時代性・ドーピング違反歴を考慮すると実質的な世界記録保持者と言っても過言ではない。
つまり、本業で(クリーン選手の中で)歴代最高のアスリートであり、かつ最軽量の部類であることを考えると何もおかしくはない記録である。ハンマー投げの世界記録保持者、ユーリー・セディフも112㎏で3m50跳んだとされていることからも立ち幅跳びという指標とハンマー投げの相関関係が認められる。
体重の重さを考慮するならば3m48のエネクウェチや3m23のライアン・クルーザーも特筆に値する。エネクウェチの体重が室伏並みならば3m60に近い記録は十分可能であっただろうし、145㎏かつ10か月ぶりの挑戦で3m23を記録したクルーザーも非常に高い瞬発力を持っていよう。
さすが、世界トップクラスの投擲選手と言える。
127㎏の時はウエイト種目でベストを出したものの、立ち幅跳びは3m28であった。
全身のパワー効率が上がっても、増量による飛距離のデメリットは無視できないのである。
以上の点を考慮すると室伏が彼らに勝っているのは瞬発力というよりは跳躍力ひいては身体操作能力なのかもしれない。
動画を見ていただければお分かりだろうが空中での身体動作が滑らかで上半身と下半身の連動性は他のトップ選手と比較しても卓越している。要するに室伏の3m60は「体重の軽さ+身体操作+瞬発力」が総合的に高い水準で発揮されているからこその記録なのであろう。
室伏の身体能力が極めて高いのは疑いようのない事実だが、3m60という記録を額面的にしか見ず妄りに「室伏最強!」と唱え続けているのは他の選手に対し非常に敬意を欠いた行為であると私は考える。
「他の選手より記録が良いから室伏が一番!」ではなく、この怪物・傑物たちを相手に軽量とはいえ互角以上に競えていることを称えるべきだ。それはハンマー投げも同様である。室伏広治の功績は疑いようがないのだから殊更に「室伏上げ」に終始する必要はない。
ハンマー投げ苦手説に潜む“誤謬”
余談だが最近Youtubeのコメント欄には「室伏はハンマーが一番苦手説」を唱えている方が散見する。笑えない冗談だ。
30年以上経っても息子を除く日本人選手に記録を抜かれていない室伏重信。彼が持つ日本歴代2位の75m96は3位の土井宏招(74m08)とは2m近い差をつけている。
その重信から力強い肉体を受け継ぎ、なおかつハンマー投げの英才教育を施された広治がなぜ向いていないと言われなければならないのか。
ハンマー投げに限らず、立ち幅跳びという指標からもわかる通り投擲種目はとにかく速筋比率、ひいては瞬発力が重要視される。
だからこそトップ選手は100㎏超の体重で3mを優に超えてくるのである。
「室伏はテキトーに跳んでも世界記録」「ハンマー投げが一番苦手」
これがどれだけ矛盾した言説であるか、子細に及ぶのも煩わしいほどだ。確かに高校の頃の室伏は線が非常に細く、投擲選手には全く見えない体格に父・重信をして「ハンマーということは考えられなかった」と言わしめたという話もあるにはあるが…。少なくとも男子やり投の日本記録保持者・溝口和洋にウエイトトレーニングを叩き込まれてからは世界基準では細身とはいえ、筋肉質な体型に肉体改造できたという逸話がある。
室伏が父の日本記録を更新したのは1998年であり、全盛期と比較して10㎏以上体重が軽かった頃である。言い換えれば、ポテンシャルを十分に引き出せていない状態で父を超えるほどの才能はあったということになる。
室伏の凄さを認めればこそ、いい加減な認識で褒めそやすことはしないでほしい。彼のことを真に尊敬するのであれば、まず彼の本業であるハンマー投げの功績を理解してあげてほしいと、切に願う。
以前YouTubeのほうに立ち幅跳び集を投稿したが、この記事ではさらに情報を補足していこうと思う。 [sitecard subtitle=関連記事 url=https://www.throw-fanatic.com/2022/[…]