陸上のシューズと言えば国内はミズノ、アシックスが主流で、海外ではナイキが圧倒的なシェアを誇っている。そんな中、近年存在感を増しつつあるメーカーがある。それがこの「Velaasa」だ。
Velaasa(ヴェラーサ)はアメリカミネソタ州に本社を置くスポーツ器具・用品メーカーである。陸上用品の中でも主に投擲の器具・シューズの開発・販売を行っている。
- 企業概要
本社:3139 Edgewater Vw Woodbury, MN, 55125-8707 United States
創業:2014年
電話番号:(612) 209-6513
売上高:37,744米ドル
取締役:Lynden Reder
社員数:1名
創業から約7年と決して歴史のあるメーカーではなく、ナイキやアディダス等々老舗メーカーがシェアを握るスポーツ用品業界においてはまだまだ新参メーカーであると言うほかはない。
創業者は元投擲コーチ
ヴェラーサの創業者リンデン・レイダー(Lynden Reder)はかつてミネソタ大学で投擲コーチを務めていた。
2008年秋から2016年のアウトドアシーズンまでコーチングを行っていたが、転戦の多さに疲弊してしまい辞職。今後のキャリアについて一か月熟考の上、事業を展開することを決意した。
コーチング経験を通して自らが直面した問題を解決するためにできることはないかと考えた結果だった。
選手のためだけではない。ミネソタ州への貢献もレイダー氏の願いである。
「この事業を成功させるために挑戦する責任が我々にある。誠意をもってミネソタのために。ナイキがオレゴンにとって莫大な利益をもたらす存在であったように、ヴェラーサもミネソタにとってのそれになりうるし、それが私の願いでもある」
まずレイダー氏が取り組んだのは「魅力的かつ高機能なリフティングシューズが市場に不足している」という課題であった。グラフィックデザインを志していた時期もあった彼はその経験を活かし“史上最もアスリートらしいシューズ”の開発に着手することになった。
その結果生まれたのが“Strake(ストレーク)”だった。
クールな外観はもちろんのこと、この製品の特長は機能性にある。
踵部分は木製の板でできており、このパーツを組み換えることで三段階の高さに調節が可能となっているのだ。
投擲選手だけではなく、ウエイトリフティングの世界チャンピオンキャサリン・ナイ(アメリカ)も愛用していることが完成度の高さを物語っている。
器具にも着目
次に取り組んだのは砲丸やハンマーの重量によるサイズのバラつきであった。
レイダー氏曰く「ミネソタでは投擲物の重量を変えてトレーニングをすることが多かったが、16ポンドが直径129ミリなのに対し、6キロは110ミリとぎこちなさを感じる場面があった」という。
ミネソタではPolanikの製品を愛用していたこともあり、ポーランドへ渡ったレイダー氏は投擲物のサイズに一貫性を持たせるべくPolanik社と業務提携を行った。
それによりヴェラーサの通販サイトでは一定の重量ごとに同じ直径の砲丸や円盤を取り扱うことが可能になった。
そして最後に氏が試みたのは「大学卒業後困窮するアスリートの支援」だった。
そのために立ち上げたのがヴェラーサトラッククラブ1陸上だけではなく、ウエイトリフティングの選手も所属しているである。
所属選手の代表例が砲丸投げのジョー・コバクスやダビド・シュトールだ。コバクスは2017年に、シュトールは2021年に契約を果たした。
契約に際してコバクスは以下のようにコメントした。
僕は背が低くて、本来ならこれほど投げられるはずの選手ではない。僕には速さが必要だ。そのためには相応のシューズが要る。外観だけじゃなく、本当に役に立つ靴を共に作っていきたい。
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陸上クラブの運営がどう選手の支援につながるのかというと、例えば顧客がヴェラーサから商品を購入したとする。その際、手数料の受取人にコバクスらを指定することで金銭的支援を行うことができる仕組みだという。
既にコバクスはシューズの共同開発に携わっており、その他の製品にも関わってくる可能性が示唆されている。
我々が最も差別化を図っているのは、ウチのクラブと契約すれば個人ブランドを持つことができるし、我々も選手と共に製品開発に協力できるということ。そしてそれが長期的な当社への貢献をもたらすのです。(レイダー)
選手の状況如何に関わらず契約を締結・解除するような大企業に縋るよりも、レイダー氏は「選手たちにネットワークを駆使して利益を生む機会を提供したい」と考えている。
加えて「我々は小さな会社だから、支援を手厚くできるし個人に関心を向けることも可能だ」と語った。
注目を集めたファウル
先述の通り2017年からヴェラーサのアンバサダーとして活動しているジョー・コバクス。
その年の世界陸上ロンドンではトマス・ウォルシュ(ニュージーランド)に敗れ銀メダルに終わったことはご存じの方も多いだろうが、実はコバクスのファウルとなった六投目は22m08であり、有効試技になっていれば優勝できていた。
そしてファウルの後スローモーションでコバクスの足元がクローズアップされたが、ファウルの是非はもちろん、ファンの間でにわかにこんな疑問が浮かび上がった。
「あの靴はどこのブランドだ?」
それこそがヴェラーサのシューズだった。一説には「ヴェラーサの宣伝のためにわざとファウルしたのでは」と主張する者までいるという(さすがにそれはありえないと思うが)。
今後の展望
コバクスやシュトール以外にも円盤投げアイスランド記録保持者グズニ・グズナソン(2020年加入)も参加するなど強豪選手にも年々契約を取り付けているヴェラーサ。
ナイキやアディダス、プーマなど超大手が支配するスポーツ用品業界に大きな風穴を開けることができるか。投擲やウエイトリフティングに限られてはいるものの、企業理念に賛同するアスリートが着実に増えている。
一流選手とアスリートファースト企業のコラボレーション。革新的な製品を生み出していけばさらなる発展を遂げることは間違いないはずだ。今後の動向に注目したい。
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