あの男が帰ってきた。初出場のロンドン五輪で決勝進出の快挙、84m28の日本歴代4位をマークし一躍世間一般から脚光を浴びた2012年。輝かしい将来が待っているかと思いきや、相次ぐ怪我により低迷。80mを投げることすらできなくなり、世界の大舞台から姿を消した。あれから8年、2020年8月23日。5投目に81m02を投げた新井涼平を、6投目に逆転しての劇的優勝。84m05はディーンのセカンドベストであり、完全復活を印象付けるだけのインパクトが十分ある好記録だ。
最後はユニフォームを…
万感胸に迫る想いがあったのだろうか。喜びを爆発させ興奮のあまりシャツを引き裂くパフォーマンス(?)を披露。陸上に詳しくない人は不快に思われた方もいるだろうが、世界の舞台で同様のパフォーマンスを行っていた選手がかつていたことをご存じだろうか。投擲ファンならもちろん知っているだろう。
ドイツの元円盤投げ選手、ロバート・ハルティングだ。2018年に現役を引退したハルティングだが、ディーン同様ロンドン五輪に出場し見事金メダルを獲得した当時のトップスロワーだった。このハルティング、メダルを獲得すると必ずシャツを引き裂いて見せるというパフォーマンスを行うことで有名だった。無論、ロンドン五輪も例外ではない。
ディーン自身も元は円盤投げの選手だった。意識していたかどうかは本人に聞いてみなければわからないが、ハルティングを彷彿とさせるパフォーマンスだったのは投擲ファンなら誰しもが感じたことであろう。
日本のやり投げは村上幸史の銅メダルの後、日本のお家芸になるかと思われるようなムードさえ漂っていた時期もあった。ディーン低迷の後、頭角を現してきた新井も近年は故障に悩まされ、昨年ようやく復活の足掛かりをつかんだというところであった。
体格の小さい日本人にとって、世界で一番勝負できる投擲種目がやり投げである。ディーンと新井にはぜひ切磋琢磨して、再び世界への扉をこじ開けてほしい。
管理人’sコメント
ディーンは兵庫出身ということもあり、学生時代私もディーンと同じ試合に出たことがある。自分よりもずっと遠くへ投げているディーンを間近で見て全国級の実力を痛感した。
ロンドン五輪の時はこれから日本の投擲界を担う存在になるのだと確信していただけに、怪我で衰えた彼の姿を見て寂しさも覚えた。
それだけに今回の大投擲は投擲ファンとしても、同期としても非常に嬉しい。色々と辛く苦しい思いもしてきただろうが、投擲選手は20台後半が勝負。焦らずにまた世界の舞台を目指してほしい。
あの室伏広治でも初メダルは26歳。まだ遅くない。ディーン次第で今後一花も二花も咲かせることができるはずだ。